『ドライブ・マイ・カー』レビュー｜静けさの中に揺れる心、珠玉の人間ドラマ

📺 配信中：U-NEXT / Amazonプライムビデオ

🎥 作品概要

『ドライブ・マイ・カー』は、村上春樹の短編小説を原作に、濱口竜介監督が長編映画化した2021年の話題作。第94回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞し、世界中で高い評価を受けました。

物語は、舞台俳優・家福悠介が、愛する妻を亡くした悲しみと向き合いながら、演劇を通して自分自身を再発見していく静かなドラマ。舞台は広島で、主人公と寡黙な専属ドライバー・渡利みさきとの交流が、物語の核として静かに描かれていきます。

この作品はとにかく「静けさ」が美しい。余計な演出や説明を排し、人物の内面を丁寧に描き出す脚本と演出が、観る者に深い余韻を残します。長尺ながらも1シーンごとに意味があり、言葉の選び方や間合いの妙に引き込まれます。

主演の西島秀俊は、抑制の効いた演技で観る者に深い感情の波を届け、みさきを演じる三浦透子との静かな会話は、観客の心を揺さぶります。赤いサーブ900の車内という閉ざされた空間が、逆に登場人物たちの心を開いていく装置となっているのも秀逸です。

また、演劇と映像の融合もこの作品の大きな魅力。チェーホフの『ワーニャ伯父さん』を劇中劇として活用し、登場人物の感情と物語が巧みにリンクしていく構成には、何度でも見返したくなる奥深さがあります。